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佐藤一斎からの伝言
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38 佐藤一斎(さとう いっさい)1772〜1859
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安永元年江戸後期の陽明学派の儒者。
江戸の人。名は坦。若くして林家の塾長に抜擢され、昌平黌の教授となる。
諸大名以下門下3000人と称され、
門下に佐久間象山、安積艮斎らの俊秀を輩出。
主著『言志四録』『近思録』など。
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              注)■は偉人の言葉 ◇は筆者の解説とコメント


■ 凡(およ)そ事の妙処(みょうしょ)に到るは、
 天然の形勢を自得するに過ぎず。
 この外(ほか)更(さら)に別に妙なし。

※およそ、物事のすぐれた深い味わいにいたるには、
 自然のなりゆきを自分で悟ること、満足することにすぎない。
 そのほかに別のうまい方法というのはないのである。


          *****


◇ぼくたちはずいぶんと結果ばかりにとらわれて、そのプロセスというものを
味わうことを忘れがちになっていないでしょうか? 自分が努力すれば、自分
の思い通りになるという考え。思い通りにならなければ、人生を放棄してしま
う人も増えているみたいです。

 現世は「思い通りにならない」ように仕組まれているみたいです。すべてが
思い通りになると傲慢になりますから。傲慢さは自然のなりゆきを逆行する生
き方です。

 でも、謙虚に、感謝に身をおくと、「思い通りになる」という面白い仕組み
でもあります。これも自然のなりゆきというものです。

 「自然のなりゆきを自分で悟ること」、これがないといくら情報を集めても、
何の役にも立ちません。自然のなりゆきを悟れたら、すべてのことが見えてき
ます。

        *    *    *

 先日、岡山の吉井町というところで餅つきをしてきました。10月に稲刈り
を手伝った「ヒメノモチ」という餅米でついたお餅のお裾分け。

 この日、全部で20升の餅米を2日がかりで仕込み、白餅と豆餅を10回で
つきあげました。

 中学生の頃までは、ぼくの実家では餅つきをしていました。親戚6家族分を
つくのです。しかし、餅つき機なる秘密兵器が世の中に出て、各家庭で手軽に
餅をつけるようになってからは、集まって餅をつくことは全くなくなりました。
今回、自分たちですべて段取りして、仕込んでやってみると、かなりの手間で
した。

 前日に餅米を洗って水に浸します。2日前には大雪に見舞われた中国地方。
ここは岡山の山間地なので雪がしっかり残っていました。ここの農園の持ち主
のKさんが、4キロ離れた水源から自力でパイプを引いて作った水道。手も凍
り付く山水で、ごしごしと餅米を洗います。あ〜冷たい!

 ここは水だけでなく、電気もガスも自家発生させます。籾殻を発酵させると
ガスが発生するのだそうです。これもKさんの発明です。籾殻を発酵させたも
のは肥料としても使われるそうです。今までに誰もやったことのない、新しい
試みだそうですが、これを使うと無農薬でカタチのいい野菜が育つそうなので
す。

 晩ご飯はKさん特製のおでん。ここで採れた無農薬の大根やにんじんを皮ご
と輪切りにして、鉄鍋に放り込みます。薪をがんがん焚いて煮込む煮込む。頃
合いをみてすじ肉やゴボウ天、こんにゃくなどの食材を入れて、さらに煮込む
煮込む。日も暮れかけた頃、しっかりダシのしみた極うまのおでんが出来上が
りました。

 餅米の仕込みも一段落し、囲炉裏を囲みながら、焼酎を飲み、また、釜で焚
いたご飯を頬張りながら、Kさんを中心にいろいろな会話を楽しみました。

 自然の中で生活するKさんの知恵には、ほんとすごいなあと思いました。ど
んなことをお聞きしたかちょっとだけ思い出してみると、
*電気やガスや水にはすべてお金がかからないこと。
*床下に薪をくべて室内を暖かくする床暖房は1度焚くと4,5日は暖かさが
続くこと。
*その暖かさが床全体に届くための薪の焚き方、煙突がつまらないための薪の
焚き方。
*手作りの水洗トイレは天然の浄化槽へと流れ植物の肥料となること。
*農園全体が無農薬地帯であること。
*そこで70種類以上の山菜がとれること。
*タケノコを食べたいために竹林を作ったこと。

 ほんの短時間で世間話程度でも、これだけのことを教えてもらいました。どれ
もが失敗を何度もかさねて、ようやく成功したものばかりだそうです。「大学で
勉強したからできるというもんじゃねーよ」と岡山弁で言っていました。

 自然は人間がどう努力しても思い通りにならない。人間が自然の運行をよく
知ること。自然に合わせていく。今回の偉人の言葉のテーマである「自然のな
りゆきを自分で悟ること」そのものなのですね。

 Kさんは今、ネパールと日本を行き来しています。農業指導のためです。ネ
パールは昭和30年代の日本と同じだと話してくれました。貧しいけれど、お
互いに助け合って生きている。Kさんは数年先にはネパールに移住することを
決めているようです。

 夜の9時には就寝し、翌朝、うとうとと浅い眠りを繰り返しながら、時計を
見ると夜明け前。Kさんたちは大根の出荷のために夜明けとともに部屋を出て
いきました。ぼくはぎりぎりまで布団の中にいよう。寒いんだもん。吐く息が
白い。

 7時30分から薪を焚いて湯を湧かし、蒸籠(セイロ)を仕込んでいると、
そこに1匹の子狐がエサを求めてやって来ました。3日に1度くらいの割合で
やってくるとか。昨夜の残りのおでんの竹輪をぺろりと平らげて、山に帰って
きました。

 ぼくたちは蒸籠の火の番、餅つき役、餅を丸める役を代わる代わる担当しな
がら、20升の餅を約8時間かけてカタチにしたのでありました。けっこうた
いへんです。

 一粒の種から、自然の恵み、土や水や太陽の光のお陰で、この餅米はできあ
がったんだなあ。ずいぶん手間暇がかかっています。それがこうしてお餅にな
って、ぼくたちがおいしくいただけるんだ。
 
 これがぼくたちの原点なのですね。身にしみます。

 帰りぎわに、出荷できないカタチの揃っていないニンジンをたくさんもらい
ました。それから特大の大根も。ぼくは車を持っていません。電車で帰ります。
最寄りの駅まで約40分、車で送ってもらいました。お餅を風呂敷に包んで片
手に持ち、もう片手には野菜がいっぱいはいった袋を下げ、電車に乗りこむ。

 いつもの駅で降りて、そこから歩いて自宅まで約15分。Kさんに教えても
らった「荷物と荷物をタオルでくくって、それを肩にかけたら楽なんじゃ」と
いう言葉通りにして、背中側に野菜の袋、前側にお餅の風呂敷を天秤のように
バランスをとりながら、なんとか自宅にたどり着いたのでありました。これで
年を越せそうだ。

        *    *    *

 あと少しで新年ですね。今年は岡山に移動したり、各地をひんぱんに周遊の
旅をつづけてきたので、年収は激減です。でも今のぼくはものすごく裕福です。
お金には代えがたい、貴重なものをたくさん得ました。それは大自然からいた
だいた感動であり、すばらしい人たちとの出会いであり、大きな気づきです。
大満足です。今はあまりお金がなくてもぜんぜん不安になりません。なんとか
なることを体験させてもらっているからです。

 

 

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