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『お金のいらない国』という本があります。
この内容はネット上である人が紹介してくれました。
『お金のいらない国』は長島龍人さんの原作で、
彼はいろいろな場所で「ひとり芝居」を演じられています。
ぼくも昨年の夏に見せていただいてとても感銘を受けました。
少しだけみんなにおすそ分けしますね。
◇ ここから ◇
「あのう、この国にはお金というものはないんでしょうか」
紳士は不思議そうに聞き返した。
「おかね・・・ですか。確か、前にもあなたは私にそういう言葉を言われま
したね」
紳士は少し間を置いてから私に言った。
「少なくとも私は、お金というものは知りませんし、聞いたこともありませ
ん。それは一体、どんな物ですか」
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「私たちの国では、何か仕事をすると、お金というものがもらえるんです。
そして、物にはみな値段というのが付いていて、お店で何かを買ったり、物
を食べたりすると必ずその値段分のお金を払うことになっています。あの、
買うというのはお金と引き替えに物を受け取ることなんですが、とにかく何
をするにしてもお金がいるんです。お金がなければ生きていけないんですよ」
紳士は興味ありげに私の話を聞いていた。私は続けた。
「みな、自分が働いて稼いだお金を使って生活するんですよ。だから、いっ
ぱい仕事をした人はいっぱいお金をもらって豊かな暮らしができるんです。
まあ、かなり不公平もありますし、働かないで儲けるずるい人もいますが・
・・。みな、自分が儲けたお金の範囲内で生活するようになっているんです
よ。だから、お金はどうしても必要なんです」
ここで紳士が口をはさんだ。
「要するにあなたの国では、お金というものがないと、人々が欲望をコント
ロールできないというわけですか」
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「まあ、そうかもしれませんが、でも、お金を払わなくても何でも手に入る
のなら、もう、仕事をしなくてもいいじゃないですか。毎日遊んで暮らせば
・・・」
「皆が遊んでばかりいたら、何も手に入らなくなってしまいますよ。物を作
る人も、与える人もいなくなくなるわけですから」
「でも、そういう人もいるのではないですか。働かなくても生活できるのな
ら、自分一人くらい遊んでいてもいいだろうと思う人が」
「この国にはそういう人は居りませんし、この国に、そういう人は住めない
ようになっております。それにあなたは、そのお金というものと働くという
ことを堅く結びつけて考え過ぎている気がします。仕事は社会への奉仕です
から、世のため、人のため、ひいては自分のために、皆で働かなければ世の
中は回っていきません。あなたの言うお金がもらえなくてもです。そしてあ
なたが生活に必要なものはお金など払わなくても、社会から奉仕してもらえ
ばいいのです。事実、この国はそういうシステムになっております」
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「お金はね、あるとためておくことができるんですよ。働いても使わずに貯
金・・・ちょきんというのはお金をためておくことなんですが、貯金してお
けば、後で必要なときにいつでもおろして使えるんです。たくさんためると
贅沢ができます。だから楽しいんですよ」
「ぜいたくって何ですか」
「え、ええと・・・自分が欲しい物は何でも買ったり、美味しいものをたく
さん食べたり・・・」
「この国では、欲しいと思ったものは、すぐにでも手に入れることができま
すよ」
「ただ欲しいくらいの物を手に入れたって、贅沢とはいえないんです。もう
自分に必要ないくらいたくさんの物とか、値段のすっごく高い物とか・・・」
紳士は、ぷっと吹き出した。
「そんな、自分が必要もないほどの物を手に入れて何が面白いんですか。そ
れに、そんなとりとめもない欲望を追っていたってきりがないでしょう」
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「でも、貯金しておくと、年とって働けなくなっても安心でしょう」
「この国では、働けない体の人には、みな喜んで何でも差し上げますよ。あ
なたの国ではそういう人でもお金というものを持っていなければ、何も手に
入れられないのですか」
私はまだ抵抗を続けた。
「泥棒はいないんですか、泥棒は。人の物を取っていく奴です。お金は・・
・ないからいいとしても、ほら、あなたの持ち物とか盗んでく奴」
「勿論、そんな人はいませんが、たとえいたとしても私の持ち物など取って
どうしようというのですか。大抵の物はお店で新品が手に入るのですよ。私
が手で作ったものを欲しいと言うのなら、差し上げられるものは差し上げま
すし・・・」
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「だけど、私の仕事だってね、見積もりを書いたり、支払いの手続きをした
り、お金に関することがすごく多いんですよ。それに、そうだ。銀行や保険
会社はどうなっちゃうんですか。お金がなかったら仕事がなくなっちゃうじ
ゃないですか」
「ちょっと待ってください。よく分からない単語がたくさん出てきましたが、
あなたの言いたいことは何となく分かりました。要するに、そのお金という
ものに関連して生まれる業務、あるいは直接お金を扱う仕事に携わっている
人は、お金がなかったとしたら、仕事がなくなってしまうではないかという
ことですね」
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「私の想像では、あなたの国は、そのお金というものを動かさなければなら
ないために、ものすごい時間と労力のロスをしている気がします。言い換え
れば、不必要なもののために、無駄な仕事を増やしているということです」
「でも、私の国ではお金がなければ社会が回っていかないんですよ」
「それは分かります。でも、あなたの国でもこの紙きれや金属を食べたり、
直接何かに使ったりしている人はいないわけでしょう。要するにこのお金と
いうものは、物の価値を皆が共通に認識するための物差しでしかないわけで
す。ですから、例えば今あなたの国で、このお金が一斉にパッと消えてしま
ったとしても、皆そのまま仕事を続けていけば世の中は回っていくはずなの
ですよ。それに、ちょっと想像してみてください。あなたの国の、お金を扱
う仕事に携わっている人が、その業務から一切解放された時のことを。そし
て、お金を動かすために使っていた時間や労力をもっと世の中のためになる
仕事に向けたら・・・いや、勿論お金の存在する社会においてもは、そうい
う仕事が大切なのは分かるんですが、もしそうしたら、ずっとずっと社会は
豊かになると思いませんか。いいですか。あなたの国では現在、お金に関わ
っている仕事の人が全員、その仕事をやめてしまったとしても、みなちゃん
と暮らして行けるだけの豊かさは既にあるのです。そんな、言ってみれば無
駄なことに時間や労力を使っていたにも拘らず、あなたの国はやってこられ
たわけですから。ですから、そういう仕事にかけていた時間や労力を、もっ
と社会の役に立つ仕事に向ければ、あなたの国の人々の生活はもっと豊かに
なるはずです。」
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「多分、そのお金というものを得ることが仕事の目的だと皆が思っているう
ちは、あなたの国の、真の意味での進歩はないでしょうね。仕事の目的は世
の中の役に立つことです。報酬ではありません。報酬を目的にしていると、
必ずどこかに歪みが生じてきます。自分の行った仕事以上の報酬を得ようと
したり、必要のない仕事を無理に作って、自分の利益だけは確保しようとす
る動きが出てくるでしょう。そうなると、完全な競争社会になります。それ
もお互いの向上を目的としたものではない、単なる足の引っ張り合いになる
はずです」
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紳士は最後にこう言った。
「あなたの今やっている仕事が、本当に価値のあるものかどうかを判断する、
簡単な方法を教えましょう。仮に、社会からお金というものがなくなり、そ
の仕事によって報酬を得られないとしても、自分がその仕事をすべきと思う
かどうかです」
『お金のいらない国』
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